●鍼灸学系大学協議会とは

1.高等教育機関による鍼灸教育の夜明け

 鍼灸医療は、江戸時代までは日本の正統医療として、国民の健康と病気の予防、治療として我が国の保健の一端を担ってきました。しかし、時代が明治に移ると鍼灸医療の位置づけは大きく変わり、正統医療の座を失うことになりました。明治政府は、富国強兵、殖産興業の政策を進め、医療においても強い医学を求め、ドイツ医学を中核とした西洋医学を我が国の正統医学に据え、それまでの漢方、鍼灸の伝統医療は排斥されました。

しかし、その後、鍼灸、あん摩の存続は許されましたが、医療制度の枠外に置かれ、今もその位置づけは変わりません。

こうした厳しい歴史的変遷を強いられた我が国の鍼灸医療は、戦後、専門学校と盲学校理療科(現、特別支援学校)での鍼灸師養成によって支えられてきました。これらの教育機関から有為な鍼灸師や教育者および研究者を輩出し、日本の鍼灸医療を支えるとともに近隣諸国をはじめとした欧米諸国にも我が国の鍼灸医療及び鍼灸の学術成果を発信してきました。

そうした状況を一変させたのが、中国の鍼麻酔報道でした。世界中に鍼麻酔の衝撃が走り、我が国にも大きな影響を及ぼしました。しかも薬害公害による現代西洋医学への不信が充満していた社会情勢といった背景も相まって鍼灸医療への関心が急速に高まりました。

日本の鍼灸界は、そうした状況を千載一遇の機会到来と捉え、鍼灸師の社会的地位向上と鍼灸医療の更なる発展を期すために、鍼灸界における指導的人材養成と鍼灸研究の推進を目的とした高等教育機関の設立が強く要望されました。

その要望に応えるため明治東洋医学院は昭和53年(1978年)に3年制鍼灸短期大学(明治鍼灸短期大学)を開学させ、昭和58年(1983年)には4年制鍼灸大学(明治鍼灸大学)へと昇格させ、本邦初の鍼灸大学を開学さました。ここに鍼灸界の悲願であった鍼灸大学における鍼灸師養成が始動し、かつ鍼灸研究が開始されたのでした。

 

2.鍼灸学系大学の必要性と使命

 鍼灸短期大学設立以来、39年目を迎えています。この間に鍼灸学系大学は私立大学11校、国立大学1校(筑波技術大学保健科学部保健学科鍼灸学専攻)の12大学と増え、大学教育による鍼灸師養成が本格的に行われるようになり、多くの有為な人材を世に送ってきました。加えて大学院を開設する大学も増え、鍼灸学の基礎及び臨床研究は大いに促進されました。また、多くの若き有望な鍼灸研究者も増えました。

しかし、鍼灸学系大学は12校と増えたものの他のコ・メディカル養成の高等教育化、例えば看護学系や理学療法系の医療系大学の現状と比べますと、まだまだ鍼灸教育の高等教育化は遅れていると言わざるをえません。鍼灸学系大学での鍼灸師養成が主流になるようにしなければなりません。

今や鍼灸医療は東アジアの伝統医療にとどまらず世界の伝統医学といえるまでに普及・発展しました。欧米諸国は言うまでもなく、大凡180か国の医療現場で鍼灸医療が導入され、臨床成果をあげています。何故、東アジアの伝統医療である鍼灸医療が、これほどまでに世界各国に普及したのかと言えば、それは効果があるからであり、その効果は多くの研究により裏打ちされているからです。すなわち、エビデンスが蓄積されてきたことが大きな力となっています。特に欧米では鍼灸研究が精力的に進められ、その成果は多くの国の医療を動かしたことによるものと思われます。

もちろん日本をはじめ隣国の中国、韓国は、国民の健康と病気の予防及び治療に貢献してきた長い歴史を有し、国民医療として今も活躍しています。中でも隣国の中国と台湾では中医師として、韓国では韓医師として、湯液(漢方)と共に鍼灸医療を展開し、加えて鍼灸研究も精力的に進められています。

このように今や鍼灸医療は国際的な広がりをもち、世界規模で鍼灸学の基礎・臨床にわたる研究が進められています。そうした国際的な状況の中で世界各国から鍼灸医療の悠久なる歴史と臨床実践及び研究成果を発信してきた日本への期待は非常に大きいものがあります。世界各国からの期待に応えることが日本の役割であり、それは鍼灸学系大学の使命でもあります。

 

3.鍼灸学系大学協議会の設立

 そうした大きな使命に応えるととともに、その基盤となる日本の鍼灸学を一層発展させることは更に重要な使命であります。そうした使命に応えるためには鍼灸学系大学が一丸となって取り組まなければならないものとの認識に至り、1年前に鍼灸学系大学協議会が正式に設立しました。

 ようやく歩き始めて1年が経過しました。これからが鍼灸学系大学協議会の真価が問われることになります。我が国の鍼灸医療の未来を拓くには、鍼灸学系大学の存在意義と使命を明確にし、鍼灸教育の質向上と有能な鍼灸師養成、及び教育・研究者の人材養成、そして鍼灸学の学術を充実発展させることが必要です。このことを通して、国内的には鍼灸医療の質および鍼灸師の社会的地位向上を、国際的には日本鍼灸が一定の指導的地位を確保し、リードすることが必要です。そのためには鍼灸学系大学の力を結集し、より大きな力でもって前に立ちはだかる諸課題に当たることが必要です。まさに鍼灸学系大学協議会の使命と考えています。

 本協議会が、その使命を果たすには、関係者はもとより多くの方からのご理解とご協力が必要です。何卒、力強いご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

 

理事長 矢野 忠